日増しに厳しくなる運輸・倉庫業の経営環境。不振企業再建のポイントは、IT活用による業務の効率化と総合物流業への脱皮となりそうだ。まずは、再建の方向性を定めるためにも、ポジショニングマップによる企業の現状分析が欠かせない。企業再建までの道のりを具体的事例に探る。

企業再建・承継コンサルタント協同組合
中小企業診断士・ITコーディネータ  林 隆男

運輸・倉庫業を取り巻く環境は日増しに厳しくなっている。製造業の海外シフトや景気低迷の煽りを受け、国土交通省「自動車輸送統計月報」によると国内輸送トン数は5年連続減少している。加えて荷主サイドの物流コストを明確化しさらに圧縮したい、固定費から変動費に移行したいとするニーズは高まる傾向にあり、運輸・倉庫事業者の経営を圧迫し続けている。

会社概要

所在地関東近県
資本金6,000万円
従業員630人(パートを含む)
所有倉庫10棟(6拠点)
所有車両数100台

Y社の現状

Y社は昭和30年にスタートしたH運送を基盤に発展して来た運輸倉庫会社である。平成2年に創業者の後を継いだ現社長の積極的な営業により、大手企業の荷物を次々に獲得していった。平成8年以降、大型倉庫の建設に踏み切り、保管・荷役・流通加工を行うまでに成長した。しかし、荷主からの運賃引き下げ圧力や規制緩和により競争の激化(一般・小型事業者の増加)および貨物過積載に対する罰則強化などにより、急速に業績が悪化し、経営再建計画の作成を迫られた。

ポジショニングマップにて事業戦略を修正

まず財務リストラとしては未利用土地や稼働率の低い倉庫を売却することにし、借入金の返済に回すことにした。事業リストラで検討した土地や資産についても売却を検討した。物流業としてY社が発展していくには、運送に加えて保管・荷役、流通加工、地域内配送などトータルな形での物流サービスの提供が求められている。また、Y社は大手製造業の隣地に倉庫を設けることにより、荷主の物流業務をアウトソーシングすることで発展して来た。しかしながら中国の成長により日本国内から海外への製造業のシフトは顕著であり、特定荷主に依存することは経営の安定を欠くことになっていた。以上のY社としての事業戦略をポジショニングマップで検討し、事業リストラの方向性を決定した(図表1)。稼働率の低いx倉庫とy倉庫を立地条件が良く倉庫設備が整っているb倉庫に統廃合する。b倉庫のある地区は、荷主の流動化が激しく低価格受注を余儀なくされていたが、低価格受注を止め、営業は流通加工や配送物流など収益向上の期待できる物流開発に軸足を移す。消費地に近い立地であり、保管・荷役に加えてピッキングや方面別仕分けまでを行っている大型倉庫であるd倉庫は、Y社事業戦略上の重要拠点として維持強化を図る。

荷主別コスト管理と金のかからない合理化を実施

荷主別収支管理は以前は実施されていたが、再開するとともに倉庫や運輸の各セクション別に情報を開示し、毎月実施する責任者会議で話し合いを持つことにした。また・出費を伴わない合理化策として5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)を励行することにし、5Sパトロールを実施し、収支管理同様関係者で話し合いを持つことにした。これらの施策により、現場から自発的な意見が出されるようになり、職場が活性化した。

経営改善計画は銀行の承認を得て現在実行に移されている。再建指導の過程においてコンサルタントから指摘された会社としての結束力の弱さを是正すべく、グループ力の強化、組織強化の観点から組織再編を行い、主要3社の合併作業に入っている。

一括アウトソーシングサービサーとして一歩を踏み出す

先進的な運輸・倉庫会社は3PL(企業の流通機能全般を一括して請け負うアウトソーシングサービス)に移行しているが、Y 社はまだそのレベルにない。しかし今回の経営再建計画策定を契機にその必要性は経営幹部に認識され、開発営業のできる人材の採用や情報システム構築の研究が始まっている。

より高度な運輸・倉庫業にステップアップするにはIT活用が不可欠

[1]荷主開発
荷主側の期待に応え、より早く、より安く、よりていねいに運ぶことに尽きるが、安定した荷の出る荷主、業績が良く運賃負担力のある荷主、さらに将来性のある荷主を選定する。大手企業を荷主として獲得することは、まとまった荷と仕事の安定化につながるが、取引解消した時のリスクが大きい。大口と中小口とのバランスを取った荷主開発が求められる。

[2]事故を起こさない安全運転のできるドライバー、あいさつや接客態度のできるドライバー、始業点検や洗車を確実にできるドライバーをそろえること。そのためには、定期的に教育を実施し、点呼やミーティングを通じてドライバーの意識を変え、レベルをあげていく。給与制度や福利厚生制度を整備し、働きやすい職場を作ることも不可欠である。

[3]車輌の定期点検整備をしっかり行い、常に完全な状態にしておく。定期修理計画や廃車・購入計画を立て、最適な車種構成にする。

また、燃料費・修理費・高速代などの運行にかかわるコストを把握し、車輌別のコスト管理をする。これまでの運輸業は経験と勘の積み上げで経営してきた企業が多く、計数に関する認識が低かったが、経営再建のポイントは、企業規模にかかわらず、運転者一人ひとりに原価意識を徹底させることにある。

[4]貸し切りから積み合わせ、単独から共同配送は世の流れであるが、荷主側の取り組み強化に対して、運輸事業者側は立ち遅れが目立つが、ある日突然仕事がなくなるといった危機を避けるには、実車率・稼働率を高めるため共同配送を取り込むとともに、「求車求貨システム」を利用する。

運輸事業者は一般に帰り荷の確保に苦労していることが多い。「求車求貨システム」の使用により、自車の帰り荷だけでなく、他社の帰り車の利用により輸送コストを下げることが可能となる。

「求車求貨システム」は全日本トラック協会が開発し、日本貨物運送協同組合連合会によって運営されているネットワークKITが著名であり、50組合・15,000 社が加盟している(図表2)。

その他、ローカルネット、トラボックス、とらなびネットなどがある。



[5]共同輸送の前提には、多数の荷主貨物を扱わねばならず、どうしてもITの助けを借りなければならない。

しかも小口配送のように一定の基準となる運賃がある訳ではなく、荷主ごとに異なる運賃体系を適用せざるを得ない以上、人海戦術では無理がある。経営再建途上の企業は資金余力が乏しく、IT化投資に二の足を踏むケースが多いが、ITの活用により経営効率を高め、情報先進企業から遅れを一挙に挽回しようとする積極性と決断が望まれる。

[6]経営再建を実行する過程で多くの運送業者に共通する課題が、「単純な運送業」(図表3)からの脱却がある。

この段階からステップアップすると、「運送関連事業」がある。これは、輸送のみでなく、保管・入出庫・梱包・流通加工等関連業務を引き受けるものである。荷主との関係は対等で業務分担型になる。この業務を遂行するには運送技術に加えて物流技術・管理技術が必要となる。Y社はこの段階に入りつつある企業である。

次の段階が総合物流業である。荷主の元請けとして、トータルな物流を担当する企業である。輸送・保管・荷役・包装・在庫・加工、さらには納品代行や情報処理まで一括して行う。ここでも必要となるのがITである。荷主企業の情報化の流れに合せ、入出荷、在庫、配送の情報化が必要となる。事業者としては物流にITを応用できる能力を持たなければならない。