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事業再生支援

小売業再生のポイントは店舗の運営能力と在庫管理

小売業の再生は、仕入先の見直しや店舗のレイアウト、陳列などの見直しなど、解決すべきポイントは多 い。中でも特に重要となるのは、店舗の運営能力向上のための店長の教育と在庫管理である。具体的事例に 再生のポイントを探る。

企業再建・承継コンサルタント協同組合 理事
中小企業診断士 宮崎 健治

安売りが裏目に

総合衣料品店をチェーン展開しているA社は、創業が大正時代の地方都市に所在する老舗であった。最近時の年商は約7億円、経常利益は25百万円の赤字で、赤字は5期連続である。現在の店舗数は7カ店である。総合衣料店として、婦人服、紳士服、子供服、寝具、靴などを扱っている。来店客の多くは中高年の婦人である。また、広告のボランタリーチェーンに加盟して共同広告を出す関係で、従来は無かったお菓子まで販売している。バブル期に社長を継いだ三代目社長は、大手同業者に対抗するため安売りに走り、結果として客離れ、売上減少、収益力の低下を招いた。

業績悪化の打開策として取った施策は新規出店であった。しかし、業績の回復のために出店した新店舗で思うように収益が上らず、黒字化の目途がつかないままとなっていた。一方、新店舗の設備資金等の資金は借入金で賄ったため過剰債務に陥り、資金繰りも厳しくなっていた。A社は売上の減少を食い止めるために無理して出店を行い、借入金を大きく膨らませてしまった。02年度から毎年3店舗出店したが、それでも売上高の回復はできなかった。また、10年間で過剰債務は大きくなり、03年度以降は年間売上高を超えた借入金残高となっている。

なぜ三代目社長は社長就任後大手など競合店との競争に打ち勝つためには、安売りしかないと考えたのだろうか。例えばA社の競合店である全国展開の大手ファッションセンター甲社は、仕入コストの削減、店舗の規格化によるローコスト出店、単品管理による商品管理により急成長を遂げている。A社としては、近隣に所在する甲社など大手小売業に対抗するため、顧客をつなぎとめる方策として、中国製品を主とする安い商品を仕入れて販売強化を図ろうとしたのである。

これが完全に裏目となってしまったのである。大手小売業に対しては絶対に価格では勝てない。大手は大量に仕入れることができるので、圧倒的なバーゲニング・パワーを持っている。これに地方の中小チェーン店がかなうはずはない。品質・デザインの劣る安物しか置いていない店には、古くからの常連客の気に入った商品が店頭から消えてしまったのである。顧客が「前にお店にあったこんな服がほしい」と言っても、「申し訳ありませんが、今はそのような服は扱っていません」となるのである。結果、その常連客は以後二度と来ることはない。会社にとって最も大切な顧客を失ったことになる。

安売りのセールのためにチラシ折り込み広告を入れて、来る顧客の中には、チェリーピッカーズと呼ばれる安売り商品ばかり狙っている人も多い。その人たちは決して常連客にはならない。そうすると、会社としては売上を維持するためにまたチラシを撒き、集客を図る。しかし、売上減少に歯止めがかからず、安い商品であるため利幅も少なく収益も上らなくなる。このような状況が続くと、やがてチラシを入れる資金的余裕もなくなり、一般顧客の足も遠のいてしまうので、悪循環となる。

第04回再生事例_図1.jpg

挽回のため新規出店

その結果、客離れが益々進んでしまう。また、安売りであるため客単価も低く利幅も薄い。業績は悪化の一途をたどる。これを阻止するためA社は、新規出店を行った。新店舗は、県内の販売見込みのある場所に、立地条件もあまり考えず、十分な市場調査も行わず、販売計画もなく、場当たり的な出店であったため全て失敗した。環境的にも大手スーパーをはじめ競合店が出始めると、大きな影響を受け業績は益々悪化していった。02 年度に出店した店舗は周りに競合店もなく、初年度に僅かながらも黒字になった。しかし、1年後には近隣に競合店が開店したため、たちまち赤字店舗となってしまった。もともと安売りで、商品に差別化できる要素もなく、競合が出てくるとひとたまりもないのである。

また、仕入は本社で一括して行い、仕入先からの納品も本社になっている。商品は本社から各店舗に配送される。しかし、新店舗は全て本社から車で1時間から2時間かかるところにあり、非常に効率が悪い。また地域特性、顧客のセグメントも十分でなく、店舗の意見が仕入に十分反映されておらず、顧客のニーズに合った品揃えができていなかった。

一般的に経営者は売上が落ちてくると、不安で何とか売上を維持、あるいは増強しようとする。売上さえ増加すれば利益はついてくるという考えであるが、長期化する不況の中で売上増は難しい。まず、収益力の増強を考えるべきである。売上至上主義から脱却して利益中心と言われて久しいが、多くの中小企業の経営者あるいは個人事業主は、未だに売上第一主義である。

A社の経営者も同様に売上の減少に歯止めをかけるため、早期に売上回復を図ろうとして十分な調査もせずに出店してしまったのである。これが失敗だった。一方、A社の既存店舗は、安売りのため売上の減少、収益率の低下を招いていたが、加えて店舗の老朽化、長期在庫の増加、人員削減のため接客サービスの低下など多くの問題点を抱えたままであった。本来は、既存店舗の改善・改革を行うべきところを、安易な出店に走ってしまって失敗したのである。

再生支援の実施

このような状況が続けば、早晩倒産することが目に見えていた。したがって、A社のメインバンクである地方銀行が、CRC(企業再建コンサルタント協同組合)をA社に紹介し、CRCが企業再建の支援することとなった。

支援のため各店舗を訪問して、これは再生が難しいと感じた。本店は老朽化が進み、看板は色あせており、店の顔であるファザードには缶ジュースなどの自動販売機が置いてあった。中に入ると処分セールのPOPばかりが目立ち、商品はくすんだ色合いばかりで暗い感じである。店員は黙って立っているだけで、客の相手をする気配も感じない。また、商品が不足していて、空き棚が目立つ。売価は安売り店で、プライスゾーンも980円、 3,990円といった値札が目立つ。

支援のためのデューデリジェンスを行った結果、いくつかの問題点が明確になった。デューデリジェンスは、資料とヒアリングを中心に行った。ヒアリングは社長のほか部長や店長にも実施した。調査の結果、問題点を挙げると以下の通りとなった。

① 経営者が、経営に対する情熱を失ってしまっており、経営者としての責任を十分に果たしていない。経営者はなりたくて社長になったわけではないという意識を持っており、最近は趣味の骨董に熱中しているとの関係者の話もあった。

② 長期化する業績低迷の中、優秀な従業員が辞めていき、店長はじめ従業員の質が低く、店長ですら在庫管理について何も知らないといった状況である。中には2年前パートで入った人が店長をしている店もあった。店舗にある商品のアイテム数を聞いても全く反応がない。在庫管理はどのようにしているかを聞いても、回答できない状態であった。

③ 資金繰りの悪化のために、主として現金問屋から仕入れており、商品の品揃えに問題が出ており、また空き棚が目立つようになってきている。現金問屋では、安いということからセット商品を買っている。例えば紳士肌着がセットになっており、LLが5枚、Lが5枚、Mが5枚、Sが5枚となっている。しかし、LLを買う人があまりいないとすると、LLが売れ残ってしまう。これが長期在庫となってしまうのである。

④ 顧客のニーズに合った品揃えができていないため、客離れに歯止めがかからない。店内の衣料品の多くは中国製である。色・デザインもこれといった特色のないものがほとんどであった。最近の高齢者の婦人は結構おしゃれである。品揃えにミスマッチが起きている。

⑤ 赤字店舗も含め漫然と営業を続けており、販促もチラシに依存しており、何等改善策等が取られていない。価格訴求的なチラシばかりなので顧客にとっては新鮮味がなく、他の競合店との差別化が全くできていないため、チラシの効果があまりない。

⑥ 在庫管理は、年1回だけの実地棚卸である。売れ筋、死に筋の把握ができておらず、長期在庫、不良在庫の処分が不十分である。過去に実地棚卸の結果、カシミアの衣料品が大量になくなっていることもあった。おそらくこれは従業員が商品を横流ししているのであるが、犯人追求が甘くその容疑者は今も働いているとのことであった。

⑦ 7カ店中4カ店が赤字店舗であり、そのうちの1カ店を除き黒字化の見込みがない。

これ以外にも過剰債務、実質債務超過など財務上の問題も多いが、ここでは上記の事業に関する問題解決について述べることとする。

企業の成否は経営者次第であるとよく言われる。A社も経営者が経営に対する情熱を失っており、このままではいくら抜本的な事業再構築プランを立てて事業計画を策定しても実行できないため、計画倒れになってしまうことは目に見えている。A社は悪い意味で家庭的な雰囲気があり、経営者一族自らが営業時間中もプライベートな話をすることが多く、けじめがつかないようである。尚且つ経営者は意思決定が遅く、成り行き任せの先送り経営であった。外部から見て、現経営者では再建は難しいと感じた。経営者を代えることが何よりも重要課題である。このことも踏まえ、CRCは前述の問題点につき以下の方策を会社と協議しながら策定していった。

① 外部から再建経験者で、人格的にも適任である人材を発掘して、社長として派遣することとした。大手小売業の経験があり、企業再建に関しても実績のある人材である。三代目社長も社長の座に未練はなく、社長を譲り一切を新社長に任せることで異論はなかった。ただし、株主としてはそのまま残った。

② 新社長が小売業にいた経験を活かし、新社長自ら店長に対し、接客サービス、在庫管理など店長として必要なことを教えることとした。これまでは、営業部長が店長の教育もやることとなっていたが、実際には何もしていなかった。

③ 現金問屋からの仕入を極力減らし、仕入先を開拓し、少しずつ顧客ニーズに合った、しかも十分な利鞘の取れる商品を仕入れることとした。もちろん仕入資金も枯渇していることから直ぐには大幅仕入ルートを変えることはできないが、これをやらねば会社の存続はない。

④ 来店客の分析を行った結果、今後は中高年の婦人に的を絞り、ターゲット層のニーズに合った品揃えをすることとした。安売りをやめることとする。安売りではなく、デザイン、品質などがよい商品を揃え、常連客の囲い込みを行う。そのためには従来のセミセルフ的な販売を改め、接客を通じて顧客情報を収集し、顧客の要望にこたえることとした。

⑤ 常連客を中心とする顧客データ、顧客情報を活かして従来のチラシ一辺倒を改め、ピンポイントをついたDMによる販売促進も行うこととした。また、店舗にあっては、店別目標を定め、店員一人ひとりの目標も決めて売上増強を図ることとした。目標達成店には報奨金を出すことにした。もちろん前提条件として、店長をはじめとする従業員の接客サービスの質のアップのための教育を実施する。

⑥ 在庫管理に関しては、単品管理を行う。単品管理台帳を作成して、週間で売れ筋を把握して発注に活かすこととした。当然ながら、いきなり単品管理は大変なので重点商品から始め、徐々に導入することとした。長期在庫を持たないように商品の在庫期間を把握して、長期になる前に処分販売することとした。

⑦ 赤字店舗4カ店中3店舗は閉鎖し、1カ店は現在の店舗の近くに移転して黒字店舗化を図ることとした。閉店とする店舗は、競合先など外部環境を考えると将来的に黒字化ができない店舗である。

事業計画の策定

以上の事業再構築プランを策定して、プラン実行による業績回復を織り込み5カ年の事業計画を策定した。概略事業計画は図表2の通りである。

06年3月期は順次店舗を閉店するが、基本的には閉店セールを行い、できる限り現金化を図ることとした。閉店セールは、売上高の低下を最小限にするが、粗利益率の減少は避けられない。07年3月期の売上高は、3店舗閉鎖するため大幅に減少するが、施策実行により08年以降は30百万円の売上増を計画している。来店客数の増加と客単価の増加により実現する。安売りをやめ、常連客向けに利鞘の多い高価格商品を販売することにより、粗利益率を改善する。実現のためには接客サービスをはじめ、肌理の細かい販売促進策を実施して目標達成を図る。06年3月期は自社保有店舗の売却など資産の売却を実施して230百万円の負債の圧縮を行うが、特別損失として100百万円の売却損が発生する見込みである。

第04回再生事例_図2.jpg

計画では債務償還年数は事業計画の3年目で9.3年と10年以内に収まる見込みである。また実質債務超過に関しても、事業計画の5年目、10年3月期に解消見込みとしている。

事業計画上ランクアップの要件、原則として計画の3年目に債務償還年数を10年以内とする、中小企業では実質債務超過解消を5年以内に実現するという条件を満たしており、A社は正常先に上位遷移を認めてもらえる可能性のある事業計画を作成することができた。再生企業の中には事業計画を作り、金融機関の合意が得られると安心してしまい、事業計画の実行を行わないところがある。これでは何にもならない。また、以前の窮境に陥ってしまうのである。

計画上の数字では、CFは全て借入金の返済に充当しているが、金融機関からの追加支援が得られない可能性も強く、CFの一部を会社の運転資金等に使わせてもらうよう金融機関の理解を得ておくことも重要になる。

小売業の再生支援のポイント

再生支援で最も重要なのは業種にかかわりなく、再生について経営者の理解を得ること、さらには経営者の意識改革を行うことである。窮境に陥った最大の責任は経営者にあることは間違いなく、そのことを自覚した上で何とかこの窮境を脱するという強い信念を持ってもらうことが大事である。たとえ、経営責任を取って社長を辞任する場合でも同じである。コンサルタントの大きな仕事はこの経営者の意識改革を行うことである。これができて始めて、具体的な再生に取り掛かることができるのである。

小売業の再生で重要なのは、店舗の運営能力である。チェーン展開している小売業では店長の役割が大きい。経営者は店長の教育を十分行い、優秀な店長が店員を指導して接客サービスなど従業員の質の向上を行う。

次に在庫管理である。再生が必要な企業のほとんどは、この在庫管理が不十分である。単品管理が理想であるが、限られた経営資源では難しいのも事実であり、不振企業の多くは在庫管理ができていない。在庫管理は、会計上の在庫管理と販売促進上の在庫管理がある。会計上とは、在庫管理が不十分だと在庫負担が大きくなり資金効率が悪いということである。また、販売促進上とは売れ筋、死に筋の把握ができていないと長期在庫が増えていき、売れ筋商品などの機会ロスが発生してしまうということである。通常の販売では、売れ筋、死に筋の把握、新規商品の発掘などが大切であるが、通期では長期在庫を持たないように、思い切った処分セールなどを実施して在庫を適正に維持することである。

大手小売業でも事情は同じであるが、特に中小企業が大手に伍して競争して生き残っていくためには、顧客情報を活用した肌理の細かい販売促進策をとることである。具体的には、FSP(フリクエント・ショッパーズ・プログラム)である。優良常連客を大切にしたマーケティング活動のことであり、航空会社のマイレージサービスが代表的である。飛行機に多く乗ってポイントを多くためた顧客に対して、座席のグレードアップを提供したり、ラウンジの利用などの特典を与えたりするものである。小売業では、優良常連客に対して特別セールを実施するなど様々な方法がある。チラシを撒いても安売りでは大手には勝てないし、利益率も低い。店にとって本当に大事な客、優良常連客に対して優遇することにより、常連客を囲い込み適正な利益を確保するのである。

それ以外に小売業の再生では、仕入先の見直し、店舗のレイアウト、陳列など多くの解決すべき課題があるが、最後は経営者のやる気である。情熱を持って成功するまでやることが再生につながるのである。

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