温泉旅館の課題は債務償還年数が長いことにつきる。設備投資が先行するあまり、リニューアルにもまと まった投資が必要となり借入依存となる。したがって、早急な負債圧縮、資本増強を行う必要があるが、同 時にキャッシュフローの最大化も重要。本業の利益最大化には人件費の削減等に加え、抜本的なビジネスモ デルの見直しが必要となる。そして、再生実現には経営者のビジョンの明確化と全従業員の再生への意思統 一が原動力となる。

企業再建・承継コンサルタント協同組合代表理事
真部 敏巳

ほたる旅館は、地方の老舗温泉旅館として創業以来経済成長の波に乗り、発展を遂げてきた会社である。現社長は二代目で25年前に跡を継いで社長になった。しかし、温泉旅館も長引く不況などの影響で団体客の減少と客単価の減少を主因に売上が減り続けていた。ほたる旅館の概要は以下のとおりである。

このような状況下、社長も危機感を持って顧客確保サービスの充実に工夫を凝らしているが、抜本的な経営改善にはつながらない状況にあった。

また、同時に以下のような問題を抱えていた。

① バブル期の別館の新築と本館のリニューアルを金融機関借入に依存していたことで、借入が大幅に増加、年間3,000万円の利息の支払いがあり、本業のキャッシュフローでは銀行への返済を継続することは困難であった。

② 時価の下落により資産価値がどんどん下がり、銀行に差し入れている旅館の土地建物も担保不足となっていた。時価ベースのBSでは約500百万円の実質債務超過になっていた。

③ 金融機関取引は3行あるが、メインバンクの融資シェアは50%を超えていた。過剰債務の中で業績が悪化しており、メインバンクとてもこれ以上の放置はできないし、これ以上の支援も難しいところにまで来ていた。

④ 最大の問題点は、経営にスピード感が感じられないことであった。今までは老舗のブランドで成り立っていたのだが、そのブランド力が落ち始めている。経営環境の変化に適応できる人材がおらず、変革・改革をスムーズに実行できない状況であった。                        

⑤ 現状況では、債務超過解消まで15年を超えており、本業のキャッシュフローでの返済期間も30年以上という状況であり、メインバンクからも要管理先(実態は破綻懸念先)からのランクアップを余儀なくされていた。

温泉旅館の課題は、一言で言えば債務償還年数が長いことである。設備投資が先行する形であり、リニューアルにしてもまとまった投資が必要となり、自己資本で賄うことは難しく、どうしても借入依存となってしまう。ほたる旅館も過剰債務が一番の問題となっており、早急に負債の圧縮、資本の増強を行う必要がある。

また、有利子負債の圧縮と同時にキャッシュフローの最大化が重要である。本業の儲けを最大化し収益弁済を行い、債務償還年数を縮小することが重要である。人件費の削減等に加え、サービスの向上による売上高増強が望まれる。社長としても顧客第一で種々サービス改善に努めてきたが、抜本的にビジネスモデルの見直しを行い、収益構造を変えることが必要となる。

さらに、旅館・ホテルの場合は、部屋が埋まらないと収益が上がらない。特に平日の稼働率をいかに上げていくかが最大の課題であった。

(1)業務リストラ

① 料理の改善を料理原価の抑制と同時に行う。料理長の意識改革と仕入ルートの変更でこれを達成する。同社は20年以上同じ仕入ルートを続けており、原価率が非常に上がっていた。仕入先も安定的な供給に慣れており、製品の努力などが見られなくなっていた。調達先もいくつかに分け、食材のなくなるリスクを極力減らした上で、価格の交渉に応じてもらえるように努力した。また、在庫管理も徹底させ、食材・売店商品の発注・納品・在庫管理システムの徹底した見直しを図った。

② エージェント任せ(依存率80%以上)の集客から独自の営業で宿泊客数の増加を図る。インターネットのさらなる活用と顧客データ活用による営業活動の強化を図る。つまり、既顧客の分析を行い、年齢層が高いことを分析。平日客の集客に力を入れた。旅館・ホテルの場合は、最低原価を超えれば後は収益になる。1カ月前、2週間前、1週間前、3日前というタームで、空き状況による価格決定の仕組みを作った。

③ 団体客中心の受入態勢から個人客に焦点を合わせた接客、設備の見直しを図る。

④ お土産品について、販売方法を大きく変えることにした。商品を絞り込み、顧客のニーズにあった品揃えを行い、接客時の商品説明に力を入れる。旅行になれた客が増え、自家使用のお土産のニーズが高まっていることに気づき、包装はなるべくシンプルにしてその社長として分手ごろな値段になるような形・サイズに気を配った。その結果、知人へのお土産もシンプルな包装で良いという客も多いことがわかり、新たな品揃えのきっかけに結びついた。

⑤ 平日客への価格帯別のサービス以外に、思い切って「素泊まり」プランも作った。ただ周辺に飲食店が少ないこともあり、結果的には旅館の食事を要望する客も多かった。ただし、素泊まり希望客の場合は、旅館用の食事ではなく、麺類やカレーや居酒屋メニューを希望する客も多く、食堂での対応が可能かどうか、または売店につまみ類や飲み物の種類を増やしたり集客につながるプランを試みた。

⑥ 料理部門を11名から7名体制にして4名削減、接客部門も業務合理化を図り、8名早期退職などで人員削減を行う。また、従業員の配置換えを行ったり、効率の良い導線を指導した。人員削減の中には、ワークシェアリングも導入し、人件費の流動化を図った。

⑦ さらなる役員報酬カット、エージェント支払手数料、雑誌購読料、諸会費、消耗品費などの見直しにより、合計17百万円の経費削減を実行した。

(2)財務リストラ

① メインバンクとして、何とか再生を果たし格付けアップしたいという意向が強かったこともあり、経営者の私財提供を条件に、今回銀行として3億円のDDS(劣後ローン)を行うことを決めた。

② 経営者は債務圧縮のため、株式等の資産売却により1億円を提供することにした。

事業再生に取り組んだ結果、取り組み初年度である前期決算では、売上は約5%増加、当期利益は40百万円の黒字となった。今期は50百万円の黒字を計画している。事業計画では今期末実質債務超過額は100百万円となって、3年後の債務超過解消の見込みである。また、債務償還年数に関しては、キャッシュフローを32百万円から60百万円にあげる努力をしたため、15年以内に縮小されることになり、上位遷移が可能となった。また、銀行からの強い要請で経営者の交代を余儀なくされ、後継者として長男が就任することになった。

経営者の交代を要請された関係で、後継者教育の一環として、短期間で学べる当CRC(企業再建・承継コンサルタント協同組合)のターンアラウンドマネージャー(TAM)養成講座を受講してもらい、経営の基礎知識を身につけてもらった。

また、夏休みの他県リゾートホテルの企画立案から実行計画に参加し、人員配置・マネジメントの方法などを学べるように段取りを組んだ。リゾートホテルにとっても、即戦力としてメンバーの一員となって、誰よりも一生懸命働いてくれ、良い意味でのリーダーシップを発揮してくれた。

このイベントに参加した後、自分自身の旅館の課題も浮き彫りになり、後継者はほたる旅館の将来のビジョンをしっかりと掲げつつ、従業員のやる気をいかに引き出すかを学んだようである。戻ってきてまず行ったことは、全従業員を集め状況説明を行い、決意表明を行った。二代目が旅館の窮状を説明し、このような状況を招いた経営の責任を素直に認め、経営責任を取るために二代目は辞職し、三代目に正式に引き継ぐ旨を伝えた。

この決意表明により、とにかく旅館を建て直したいという強い意志が全社員に伝わり、皆ついていきたいと言ってくれた。二代目・三代目の人徳であろう。自分たちが何をしたら良いのか、一人ひとりとじっくりと話をし、社員一人ひとりに自覚が生まれた。現在のほたる旅館は、非常にやる気あふれた良い雰囲気に変わってきていると言える。例えば、「お片づけリスト」を作ったり、社員同士で色々な取り組みを行っている。この「お片づけリスト」により、お金を掛けずに旅館の見栄えが大変良くなった。また、せっかくやる気が盛り上がっても、継続しないと意味がない。打ち上げ花火のように最初だけ良くても、続けてこそ意味のあるものになる。そこで実施スケジュールを作成し、それぞれの進捗状況が確認できるようなしくみを作った。CRCからも、後継者教育を兼ねて、毎月モニタリングに出向いている。

「業種別シリーズ」も今回で最終回を迎えた。各業種によって、再生手法が違うことも多いが、根本的な改革の内容はそう変わるものではない。会社を経営していると、良い状態にも悪い状態にも陥る時は必ずある。今の成功体験が後の失敗の要因になることも多々ある。良い状態であり続けるためには、良い状態の時こそ、それぞれのリストラ(再構築)を行うべきである。業績が急に伸びた時に、その業績に応じて社員を大量に採用する会社も多いが、一方で本来やるべき仕事だけに絞り、それ以外の仕事を断るという会社もある。

しかしながら、どちらも後の失敗の要因をはらんでいる。急速に発展している時には、会社の理念以外の要因で入社してくる社員も増える。結果、理念を共有していた社員がいづらくなって辞めたり、社内に溝が生じたりする。経営幹部は、業績に対応するあまり、社員のモチベーションが変わってきていることに気づかなかったりする。

また、せっかく頼まれた仕事を断り続けていると、それ以上の仕事は来なくなり、仕事の幅が広がらない。ただ、理念を共有できない社員を入れないと回らない仕事であれば、その仕事は断った方が良いという社長の判断は、間違いではないと思っている。それであれば、アウトソースするという方法もあるのではないだろうか。

景気も少し回復の兆しを見せ、今まで引き継ぎたくても引き継げなかった会社も、そろそろ後継者にバトンタッチしても良いだろうという経営者も増えてきた。創業理念をしっかりと伝え、後継者へ気持ちよく引き継げたら良いのだが、得てして親子になるとスムーズな引継ぎが難しくなる。

「再生から承継へ」。CRCのコンサルティングの幅も増えてきている。110件を超える再生に関わり、一番強く感じているのは、「経営者に本当に会社を建て直したいという強い意志があるかどうか」である。企業の再生も承継も、成功の要諦は「経営者の心の中にある」と私は思い続けている。