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外部人材に企業承継するケースで所有と経営の承継が曖昧で事業再生に失敗

経営者は経営不振の企業再生のために外部から後継者人材を受け入れ 、近々会社の支配権も譲るつもりであった。 しかし銀行が会社の提出した 経営再建計画に合意、リスケジュールに応じてくれたため 、経営者一族が経営権を手放すことを翻し経営を継続した結果、事業再生に失敗したケースである。

企業再生・承継コンサルタント協同組合 理事
中小企業診断士 宮崎 健治

はじめに

06年6月に発表された事業承継協議会の「事業承継ガイドライン」によると、事業承継(以後「企業承継」とする)は、親族内承継、従業員や外部への承継、M&Aの三つに分けられている。20年前と比較すれば、経営者の子息・子女に承継している企業は半減しており、今後益々親族外への承継が増えるものと推測されている。また、経営不振など再建途上の企業にあっては、現経営者やその一族では再建できない場合も多く、ターンアラウンドマネージャー(TM)など外部人材の受入による再生のケースが増加している。日本経済が成熟段階を迎え低成長時代の現在、業種を問わず企業の生き残りは難しくなっており、経営者手腕の如何が企業の存続に大きく影響する時代になっている。ゴーイングコンサーンとしての企業の存続を図る

ためには、親族に後継者として相応しい者がいない場合には、積極的に外部人材の受入やM&Aの手法を使って企業承継することが必要である。

企業の存続・発展は、経営者一族のためだけではなく、そこで働く従業員や、取引先や顧客、株主など利害関係者のためでもあることから、企業承継に当っては、誰に引き継ぐのがベストかを慎重に検討して、確実に引き継ぐことが重要である。実際には二代目、三代目の親族内承継では、なりたくて社長になったのではないとか、他にやりたいことがあったとか、その会社の社長として相応しくないにもかかわらず家業であるということのみで親族が承継している場合も多く見られる。それは承継した本人にとっても不幸であり、従業員等の利害関係者にとっても望ましいことではない。日本経済の活力の維持のために、今後、世代交代を迎える多くの中小企業の企業承継は重要な課題である。親族内に後継者がいない場合には、親族外承継、つまり従業員や外部への承継やM&Aが増加することが予想される。

ただし、TMなど外部人材による企業承継では、いくつかの解決すべき問題もある。所有と経営をどうするかということや、企業の金融債務に関する代表者の連帯保証の問題などである。

会社の支配権を持って経営に当たる場合には、 67%以上の株を保有する必要があるが、所有と経営を分離していて、単に経営者に経営を任せる場合にはその必要はない。中小企業では同族経営が圧倒的に多いが、同族会社から脱却して経営改革などを行う場合、外部からの人材による承継に当っては、同族の株主からの低抗を阻止するため、必要株数を保有して経営権の安定を図ることが肝要である。従来、所有と経営が一体であったため、会社の支配権云々は議論にもならなかったのが実態である。しかし、外部人材への承継においては、会社の支配権の有無は重要問題である。外部への承継の場合で、金融債務に関する代表者の連帯保証をどうするかは、事前に解決すべき問題である。通常、連帯保証に関しては、外部人材による代表者就任に当り債権者である金融機関から債権保全のため保証を求められることになる。企業再生のケースでは、外部人材の新代表者に負の遺産の経営責任もないことから、再建完了までは前代表者が連帯保証人を継続するなどして、金融機関の了解を取っている。

事例企業承継が曖昧で事業再生に失敗したケース

会社名 ファッションセンターF
業種 総合衣料品店
資本金 40百万円
売上高 約7億円
経常利益 約25百万円の赤字
借入金 約 4億円
店舗数 7カ店
従業員 約50名

同社は、大正時代創業の老舗である。創業以来婦人服、子供服、紳士服を扱い、下着類、寝具、靴なども品揃えしている総合衣料品店で、現在7カ店の店舗を持つ。長引く不況の中、安売り中心で来た商売が、長期化する消費需要の減少、競争の激化などにより、来店客数の減少、客単価の減少を招いていた。結果として5期連続赤字決算となった。このまま経営を続けていても、恒常的な赤字体質から脱却する見込みもなく、倒産は時間の問題であるといった状況にあった。

一方、借入金は約4億円で過剰債務の状態であり、5期連続キャッシュフローもマイナスで、年間約20百万円の返済も非常に大きな負担となっており、資金繰りが苦しい。そのため、仕入資金も不足しており、現在現金問屋からの仕入のみとなっている。その結果、デザイン、品質面で品揃えが悪くなって、客離れ現象も起こっている。

このためメインバンクである地方銀行としても、このまま放置するわけにもいかず、抜本的な解決のため会社に再建計画を策定するように要請した。会社は同族会社であり、長男であった社長は三代目でバブル期に父親から跡を継いだが、社長になりたくてなったわけでもなく、当初より事業にはあまり熱心でなかった。経営を引き継いだ社長は、大手小売業に対抗するために事業戦略を安売りに大きくシフトしたため、結果として、昔からの常連客の客離れ、客単価の減少を招き窮境に陥ったのである。

このため、社長は経営に対する意欲を益々失い、会社経営から身を引くことを決め、外部から経営者人材を招くことにした。新社長として、元大手スーパーの店長や人事部長を経験した人材を紹介してもらい、採用することとした。現社長は、代表権を持ったまま会長となり、新社長を迎えた。新社長にはタイミングを見て代表権を譲り、株に関しても過半数を譲渡し、オーナー経営を放棄する予定であった。なお、新社長を迎えた直後の役員と株主構成は以下の通りである。株主構成を見ると、典型的な同族経営の会社である。

【役員構成】
代表取締役会長 前社長
社長 外部人材
取締役 会長の母
取締役 社員
監査役 会長の姉
【役員構成】
会長 30%
社長 0%
会長の母(取締役) 21%
会長の姉(会社に関与せず) 16%
会長の姉(監査役) 16%
その他(社員等) 17%

新社長は就任後、直ぐに各店舗の人員の見直しなど店舗運営の合理化に取り組んだ。会長は、後見役のような立場で社長の行う改革を見守った。

ただし、会社としてはメインバンクより再建計画の提出を求められたことより、コンサルタント機関に、再建計画策定支援などを依頼することとした。コンサルタント機関として当組合が支援することとなり、デューデリジェンスを行い、事業再構築プラン、再建計画などの作成支援を実施した。

再建計画では事業に関しては、店舗の見直しで 7店舗のうち3店舗を閉鎖することとした。また、意識改革を含めた従業員の教育・研修の実施や、在庫管理の徹底、品揃えの改善など多くの施策を実行することとした。実行に当っては、社長の改革に対する覚悟、取り組み姿勢が何よりも重要であった。おそらく前社長では、改革に対する意欲も希薄であり、従業員の信頼も得られていなかったため、改革に着手できなかったと考える。新社長は、再建計画策定期間においても、熱心に店舗運営の改善に努力し、従業員の指導に当っていた。再建計画実行段階においても、順調に再建に向け進んでいくように思われたが、新社長と会長の姉である監査役との意見の相違・確執が深まり、結果として外部人材による企業承継が頓挫してしまった。

事例の問題点

(1)監査役が社長に協力することを拒んだ

新社長は、会社の再建に真剣に取り組み、店舗の改革に精力的に臨んだが、経理も担当している監査役は銀行取引や経理に関して新社長に情報を開示しなかった。監査役は会長の姉であることから、会長に対しても発言力を持っていた。新社長は、監査役に対して不信感を募らせた。会長は比較的穏健な性格でもあり、新社長の経営にあまり反対はしなかったが、監査役は、外部の人間に会社を自由に変えられることに抵抗し、事あるごとに反対した。新社長は、このままでは思い通りの経営はできないと考え、会長に監査役の退任を求めたが、会長は優柔不断な態度をとり続けた。会長としては早く代表権を譲り、会社から身を引くつもりであった。しかし、監査役の協力が得られず会社の全容把握ができない状態では、新社長としては全ての経営責任を負うわけにはいかず、いつまでも代表取締役就任を拒んだ。

この結果、ずるずると会長は代表権を持ったまま残る形となり、社員の間では会長、社長どちらについていけばいいのかわからなくなり、混乱を招いてしまっていた。企業再建に取り組む上では大きなマイナスである。このような状況の中、新社長の改革に対する情熱が徐々に薄れていった。

(2)監査役が経営に乗り出す

当組合は再建支援のため、デューデリジェンスを行い、再建計画を立案した。そしてメインバンクである地方銀行に再建計画を説明し、再建計画について理解を得た。この結果、1年間の元本返済の猶予や期間延長による元本返済負担の軽減などのリスケジュールをしてもらうこととなった。

当面の資金繰りにも苦しんでいた会社としては、リスケジュールにより当面の資金繰りの目途が立つことになり、事業の建て直しに注力することが可能になった。

しかし、会長の姉である監査役は再建に明るさが見えてきたことで、家業をここで手放すのは忍びがたく、自ら経営をしたいと主張して会長を説得した。監査役としては、資金繰りさえ何とかなれば、何も外部人材に経営を引き渡す必要もなく、同族で会社をやっていけると考えたのである。

当初会長は、会長の株(30%)と母親の株(21%)、会社の経営に関与していないもう一人の姉の株(16%)を新社長に譲り、会社の支配権を渡すつもりであったが、監査役の翻意により、母親ともう一人の姉が監査役の方につくこととなり、支配権の譲渡が困難となってしまった。

会長としては、すでに会社の経営を放棄しているので何の未練もないが、身内である監査役が会社の事業を継ぎたいといっているので、拒絶する気もなく承諾してしまったのである。

(3)新社長の思惑が外れた

新社長としては、会長に請われて社長に就任したので、会社の経営を任せられ、近いうちに会社の株についても、支配権を確立するのに十分な株数の譲渡が行われるものと信じていた。おそらく、社長就任に当り、会長との話し合いの中でそのような合意ができていたものと推測される。しかし、銀行が合意できる再建計画ができたことで、監査役が経営を引き継ぐことを宣言したことは、新社長の誤算であった。やがて、新社長はこのまま会社にとどまっても、監査役に排除されるのが明らかであることから、辞任をして会社を去った。

(4)監査役には経営再建の荷が重かった

監査役は、社長として経営に関与することとなったが、従来経理を見ていただけで衣料品店の経営能力があるわけでもなかった。結局、再建計画どおりの結果が達成できずに1年足らずで再建は頓挫してしまった。

まとめ

(1)親族内承継の問題点

このケースのように、なりたくて社長になったわけではなく、長男であったために家業である会社を引き継いだということが結構多い。その結果、承継がうまくいかなくて後継者の代で会社を倒産させてしまうということがある。

他の企業再建支援をした先でも、現社長は、今の過剰債務は父親である先代社長が招いたもので、自分には責任がないということを聞かされることがある。これは大きな間違いである。企業承継とは、負の遺産も含め資産を継承し、経営を承継するものである。ゴーイングコンサーンとしての企業を、先代社長からバトンタッチされて、そこから走り出すのである。駅伝において、20位でバトンタッチされたから、もう走るのを止めたとは絶対ならないのである。バトンを受けたら、全力疾走で走らなければならない。走る気がなければ、最初から受けるべきでないのである。

大企業の場合でも、創業者の子息など親族が企業承継すると批判を浴びることがある。親族内承継が悪いとは考えない。問題は後継者が真に会社を引き継ぐべき能力を備えているかどうかである。ある意味、企業のDNAを引き継ぐのに一番有利な立場にいるのが現経営者の子息・子女である。企業承継は経営承継と資産承継に分けられるが、経営承継には十分な時間が必要であり、その間に子息などに十分な経営者としての教育・育成に注力して、経営者に相応しい能力が身につけば後継者にすればよいのである。残念ながら、教育・指導しても成長しない場合には、子息など親族内承継を諦めるべきである。

ここに経営承継の重要性がある。射出成型のプラスチック容器を製造している中小企業の社長が突然脳梗塞で倒れ、半身不随となり話すこともできなくなり、長男が急遽後を継いだ事例がある。経営について何の経験もなく社長となって、多額の借入による設備増強を行ったが、需要が減退して売上が激減したため、たちまち返済に窮してしまった例もある。社長がいくら元気であっても、いつ何が起こるかわからないものである。その時に備えておくことが望ましいのであるが、社長が元気な時は、たとえ子息であっても跡を譲りたくないという心情もあるため、承継がうまくいかないのである。

特に、戦後創業し一代で今日の企業に育ててきた会社の社長にとって、ある意味で会社が全てでもあるため、会社から離れがたいという気持ちがある。この辺りの気持ちをどう整理して後継者にバトンタッチするかということは、実は大きな問題ではある。

例えば、人間の一生として、働くことだけが人生ではないことを改めて認識し、趣味・教養やスポーツに新たな喜びを見出し、潔く後進に道を譲るという道もある。また、後継者を立派に育てるということに情熱を注ぐというのも、やりがいのある仕事と考えるのもいいだろう。人を育てるということほど難しいものはないのだから、これに心血を注ぐのは立派なことである。経営者の一つの大きな仕事は、後継者を育成することだと知るべきである。

いずれにしても、会社というものは一族のためだけにあるのではないことを認識して企業承継をうまく行うことである。企業は経営者次第でその盛衰が決まるといわれている。だからこそ、企業承継を行う社長の最も重要な役割は能力のある人材に経営のバトンタッチを行うことにあると認識すべきである。したがって、親族内承継できないときは、M&Aも含めて親族外承継を考え、それがスムースにいくように手順を踏むべきである。

(2)外部への承継

同族会社の外部への承継では、社長が外部承継をどのような形で行うかを明確にして、迅速に手続きを行うことである。まず、所有と経営をどうするかである。再建途上の企業でTMに一時的に経営を任す場合には、ワンポイントリリーフと位置づけ、いずれ親族内承継をするつもりなら所有を維持することになる。

実際に当組合からTMを派遣しているケースがあるが、1年ないしは2年の契約で派遣している。債権放棄を伴う場合には、経営者責任、株主責任、私財提供が求められる。債権放棄を伴う再建で経営者が責任を取って退任し株式も増減資し、TMを社長として派遣したケースでは、代表権は持つが株式は持たないという条件で就任した。この場合、代表取締役社長として再建に邁進するが株は一切持たなかった。100%減資の後、増資を一族、将来の後継者候補などで出資した。同族支配を認めた形ではあるが、債権放棄に応じたメインバンクは一族の暴走に歯止めをかけるため、同族の出資した株を担保に取り、つなぎ資金等の融資のコベナンツ条項にこれを盛り込み、いざという時は株を取得することにした。また、TMの社長の連帯保証に関しては、メインバンクの要請により社長になってもらった経緯にあることにより、メインバンクは連帯保証を求めないことになった。本事例のような場合では、一族は会社の支配権を譲り、経営を外部の人間に任せると決めたら、速やかに代表権や株を譲るべきである。曖昧な形で同族が残り、株式の譲渡も遅らせてしまったため、情勢の変化で同族の中から経営を行いたいという者が出てきてしまったのである。中小企業の場合は、ほとんど所有と経営が一体となっており、親族内承継を続ける限り、株に関してはあまり関心は高くないことが多い。時には、従業員に対して口約束で株主にしているケースすらある。

これからの時代は、たとえ親族内承継であっても会社の支配権を後継者である社長にしっかり譲渡し、親族内で内紛を起こさないようにすることである。まして従業員や外部への承継の場合には、支配権の有無は会社経営に大きく影響してくる。会社法では、50%以上の株式の保有で、取締役の選任決議権を有することになるので、支配権が誰に所在するかは重要なことである。

会社の所有と経営が一体ということは、チェック機能が働かなくなるということでもあり、オーナー経営者のワンマン経営に歯止めがかからない。一方では、支配権を持ち社長がチャンスを機敏に掴み、誰からも邪魔されずに経営に当ることによって業容拡大がうまくいくこともある。

所有と経営をどのような形にするのが望ましいかは、企業ごとの解題でそれぞれのケースでベストの選択を行うほかないが、リスク管理の観点と安定的な経営の観点から考えて決めるべきである。

本事例の場合には、再建が企業にとって最重要事項である。そのためには一族では最早経営改革を行う能力がないことが明白なため、支配権も含め新社長に会社を任せるべきであったと考える。新社長が代表権を持っても一族で株の過半数以上を保有している限りいつ解任されるかも知れず、不安定な経営を余儀なくされる。したがって、新社長が社長就任と同時にがっちり支配権を持ち、経営に当たるべきであったと考える。また、会長として、暫くは新社長の経営手腕を見守りたいということであれば、黄金株を持つという選択肢も考えられたのである。

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